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松尾法律事務所
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大入島埋立問題

大入島埋立問題について

1 大入島の紹介

大分県佐伯市に大入島という離島があります。
離島とはいっても,対岸の佐伯市街との距離は短いところでわずか700m程度であり,決してアクセス困難な場所なわけではありません。そのような市街地から決して遠くない場所に,豊富なアワビやサザエが生息している上,多数の絶滅危惧種の貝類も生息している豊かな海が存在します。

2 埋立計画の問題点

この大入島を舞台にして,大分地方裁判所などでいくつかの訴訟が係属していました。問題となっていたのは,大入島石間部落において大分県が行う埋立事業であり,石間部落の部落民,漁民,石間部落の隣の部落である荒網代部落の漁民らがこれに反対し訴訟を起こしていたのです。
この埋立計画はあまりにもバカげており,断固として阻止しなければならないと考え,取り組んでいました。この埋立計画は,大分県は,①宅地を造成する,②緑地公園及び運動公園を整備する,③トンネル掘削残土及び浚渫残土を廃棄する,という3つの目的を果たすために行うとされておりました。
しかしながら,①そもそも大入島は過疎化が進んでおり宅地は十分に余っています。②大入島内には,トライアスロン大会やマラソン大会が行われる年2回,及び佐伯市の小学生が遠足に来る春先に数回程度しか利用されていない立派な緑地公園があります。また年間20回程度しか利用されていないナイター設備完備の野球場が整備されています。したがって,宅地造成や緑地公園等の整備はまったく必要ありません。
また,③残土処分の必要性があるとしても,絶滅危惧種(大分県のレッドデータブックにも記載されている)の貝類が多数生息し,住民が埋立に反対している場所にあえて埋め立てする必要はまったくありません。そもそも大入島は過疎の離島です。新たな土地を造成しても,何も使い道がないのです。(大入島はこれまでも安易に土砂の捨て場となってきた経緯があるようで,大入島内のあちこちで埋立が行われてきています。その埋立地の現状がどうなっているかというと,広大な空き地となっています。)離島に,多額の税金の無駄遣いをして「空き地」を作る必要はないのです。
このようにまったく無意味な事業に,大分県は多額の税金を投入しようとしています。事業全体にかかる総工費ははっきりとしていないのですが,工事の一部である1期工事分だけでも40~50億円程度とされています。

3 埋立に反対する住民の思いについて

3 埋立に反対する住民の思いについて
(1) 埋立計画は,大分県佐伯市石間区の地先水面(石間部落の目の前の海)を埋め立てようというものですが,上記の裁判の原告には「石間区」という部落がなっています。部落の総会で,部落民の圧倒的多数により,「埋立問題は一致団結し徹底的に反対する。」と決議し,訴訟が進められていっています。つまり,この裁判というのは「地元部落民の意志」として訴訟が進められていっているのです。大分県や佐伯市は「一部住民の反対があり,埋立ができない」などといい,多くの者が計画遂行を望んでいるのに,それを邪魔する者がいるかのような論評を発表することがあります。しかしながら,本件は地元民が一致団結し反対していることにその特色があります。
私は環境問題を専門に取り扱っている弁護士ではないので詳しいことは分かりませんが,地元民が一致団結し反対している石間区の状況は特筆すべきものであるということを指摘されたことがあります。(他の環境問題闘争,環境問題訴訟を非難するつもりはありませんが,)多くの環境問題事件においては,地元コミュニティ外の「環境専門家」がやってきて,その専門家の先導で問題に対応しているということが多いとのことです。しかし,石間においては,地元民が一致団結し,徹底的に反対しているという確固とした事実が存在するのです。
(2) しかも,その地元民の「思い」も極めて強烈です。
この問題に関する裁判の場において,何度か地元民の代表者らから「自らが人柱になってでも埋立はさせない」という言葉が出てきました。この言葉は,単なる口先だけの「地元民の意見表明」ではありません。地元民の多くの方が,そのような決意を持ち,この問題に徹底的に争う覚悟でいるのです。
大分県は,上記のとおり地元民の反対がある状態であり,また現在係属している裁判の決着がついていないにもかかわらず,「予算上の都合」という理由で,平成17年1月24日に埋立着工に踏み切ってきました。これに対し,各新聞紙面やTVニュースで流れていたのですが,反対派住民の1人はアンカー投入用の台船のクレーンのワイヤと手首をくくりつけて計画の白紙撤回を求めるという行動に出ました。
想像していただければ容易に分かると思いますが,大型のクレーンに手首を結びつければ,ケガどころか下手をすれば死に直結するような事故が生じかねません。私は現場にいたのですが,まさしく部落民の方が命をかけて埋立をさせないための抗議活動をしているのだと感じました。
(3) 以上のとおり,「多く」の部落民が「命をかけて」この埋立計画には反対しています。この事実を大分県は過小評価すべきではありません。どうして多くの方がこのように必死になって反対しているか,大分県は真摯に受け止めるべきでしょう。

4 大分県の方針・対応

ここでは,大分県の方針や対応について住民側からの主張・反論を記載します。
(1)住民に何を理解して欲しいというのか?
大分県は「佐伯市や県南部の発展に必要」だとか「地元の理解を得たい」だとか記者発表しています。しかしながら,住民に何の理解を得たいというのでしょうか?
大分県が強調する工事の必要性はあくまで佐伯港の港湾整備の必要性だけです。埋立工事の必要性についてはまったく言及していません。石間の住民も佐伯市の住民ですから,石間の住民うちほとんどの方が「佐伯の発展のためになるのなら」という思いがありますので,佐伯港の港湾整備自体については反対していません。(もっとも,佐伯港港湾整備の必要性がないことについては本ホームページの「訴訟の争点」のページをご覧いただければお分かりいただけると思いのます。) 埋立に反対する住民らが求めているのは,「どうして石間に埋立が必要なのか」の説明です。この点について,大分県から説明されることはありません。
佐伯港の港湾整備の必要性だけを説く大分県の説明を聞いて,住民らはどうやって埋立の必要性を理解すればいいのでしょうか?
1月29日に広瀬県知事は「佐伯市や県南地域の将来を考え,産業発展や雇用拡大のための環境整備に必要と判断して行った工事。」とコメントを発表しています。これまでの説明を読んでいただければ分かると思いますが,「過疎の離島に多額の税金を投入して空き地を作る工事」に関してどうしてこのようなコメントが出るのか,はっきり言って意味不明です。
(2)かたちだけの「対話路線」
広瀬県政のキーワードともいうべき「対話路線」。しかし,こと大入島埋立問題については,大分県は全く住民と対話する気がありません。
昨年末に県知事と住民との初めての意見交換の場がもうけられましたが,大分県はその前にすでに「平成17年1月中に工事に着工する」と記者発表していました。つまり工事をすることを前提としてはじめてかたちだけの「話し合い」の場を設けたというわけなのです。工事をすることが最初からの前提ですから,上記のとおり,単に「佐伯港の港湾整備の必要性」を強調するばかりで,石間浦を埋め立てる必要性についてはまったく説明されませんでした。
この県知事との意見交換の場が象徴的な出来事であり,これまでの大分県の姿勢というのは一貫しています。
(3)「お手盛り」政策による免許
近時,宅地や緑地の必要性が存在しないことを指摘された大分県は,「今後住民と相談して埋立地の有効活用をしたい」と発表したとされています。この発表により露呈したのが,やはり宅地の整備や緑地公園等の必要性はやはり名目上のものであったということです。
朝日新聞に掲載された五十嵐敬喜法政大学教授の話によると,「目的が不明確なまま着工する埋め立て事業など、全国でもほとんど例がないのではないか。」ということです。
ところで,埋立をするためには埋立免許というものを受けなければなりません。この埋立免許は,埋立をする事業者が県に埋立免許の出願をし,県がこれを認めるという手続きがとられます。大入島の埋立に関して言うと,埋立工事を行う大分県が,免許権者である大分県自らに埋立免許の出願を行い,これが認められたわけです。
民間企業が「埋立目的は実際のところはっきりは決まっていないが,土地が余っていればいずれはよい利用方法が思い浮かぶと思うので,埋立だけはさせて欲しい」と大分県に埋立免許の出願をした場合,大分県は埋立免許を認めるでしょうか。そのようなことは決してあり得ないでしょう。はっきり言って,大分県自らが申請し,免許を認めるという構造になっているからこそ,このようにでたらめな利用目的でも埋立免許が認められたのだとしか考えられません。
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