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松尾法律事務所
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大入島埋立問題訴訟の争点

訴訟の争点

「大入島訴訟予定」のページに記載しているとおり,大入島埋立問題については,大入島弁護団では3件の訴訟に取り組んでいます。各事件について個別の争点もありますが,重なる部分もありますので,争点につき列挙し説明いたします。

1 磯草の権利

大入島では少なくとも明治時代から現在に至るまで地先水面(陸の目の前の海のこと)は各部落が管理してきたという実態があります。そして,地先の貝類や海草類については,部落民がめいめい採取し,各家庭の食卓に供されてきました。漁協の組合員も一部落民として貝類や海草類を採取することはできますが,他の部落民同様各家庭での自家消費用であり,漁師として出荷する程度まで採取することが許されていたわけではありませんでした。
また戦後,金銭的価値の高い「金目のもの」(昭和30年代から40年代頃まではてんぐさ,昭和50年代からはあわび,さざえ,うに)については,部落主催による入札制度を行うこととしました。「部落主宰」というのは,部落が漁協からの干渉を受けず,入札者を募って入札させ,落札代金はすべて部落のものとしてきたからです。
そして,大入島において地先の管理は各部落が行ってきました。たとえば,上記入札制度による落札者に対する監視や浜辺の清掃などはすべて部落が行ってきたことで,ここに漁協は関与していません。
上記の事実関係について法的に整理すると以下のとおりとなります。大入島においては明治漁業法制定前から存在した一村専用漁場の慣習が存在し,明治漁業法の制定にあたり慣習の内容がそのまま「地先水面専用漁業権」という法律上の権利として整備されました。その後,戦後の漁業法制定(改正)が繰り返されても,明治漁業法条の専用漁業権同様の入会権的権利が大入島では脈々と引き継がれ,地先水面における漁業権者が部落であるという実態に変更が生じなかった。この部落が明治時代から有してきた入会権的権利のことを大入島石間部落では「磯草の権利」と呼んでいます。
したがって,磯草の権利を有する石間部落は大分県が埋立を予定している地先水面に漁業権を有している者であり,大分県は埋立免許を受けるにあたり石間部落の同意を得なければならなかったのにこれを得なかったので,大分県が受けた埋立免許は違法であると主張しています。
これに対し大分県は,石間区の有する磯草の権利について矮小化して主張し,「権利」とまではいえないと反論しています。

2 漁協の漁業権放棄手続の不備

大分県が埋立免許を出願するに先立ち,埋立予定海域にて大分県漁協が有していた第一種共同漁業に関する共同漁業権に関し,大分県漁協が漁業権放棄手続を行いました。この漁業権放棄手続および放棄の決議に重大な瑕疵が存在します。
(1)他部落の組合員の同意
第一種共同漁業権の行使権者,行使時期等については漁業法で各漁協において漁業権行使規則という自主ルールを制定しなければならないこととなっています。前身である佐伯市漁協時代から大分県漁協は,漁業権行使規則において,大入島の地先水面では,当該部落に住所を有する組合員が漁業権行使者となる旨定めています。したがって石間部落の地先では石間部落に住所を有する漁協の組合員しか第1種共同漁業という漁はできません。
しかしながら,大分県漁協が行った手続では,石間部落の地先だけを埋め立てるのにもかかわらず,他部落の組合員まで手続に参加させてしましました。石間部落の組合員は,自らの生活に関わることであり,多くの者が漁業権放棄に反対しましたが,他部落の組合員は自らの生活には全く無関係な上,漁業補償金も一部もらえるということがあったからか,反対者はたった2名であり残りはみな漁業権放棄に賛成してしまいました。これでは多勢に無勢です。石間の組合員が反対しても「焼け石に水」の状況です。
ところで,ここにいう手続というのは,漁業法31条に定める書面同意手続のことです。この書面同意手続とは,実際に漁をする者を保護する「少数者保護」の規定です。そうだとすると,前記のとおり他部落者を含めると,無関係な地区の組合員が多数派をしめることで実際に漁をしている者の利益を害することは明白です。したがって,大分県漁協が行った書面同意手続は違法であると主張しています。
(2) 住所のない者,医療施設に入所している者から同意を得ていることなど
上記書面同意手続を得るに際しては,漁協の役職者らが組合員の各戸に戸別訪問し,同意を得てまわっています。(そもそも,そのような方法自体も問題ですが。)
ところが,漁協は戸別訪問したといいながら,漁協に届け出ている住所地に住んでいない者からも同意してもらっています。また大分県別府市内の医療施設に入所している者からも同様に同意をもらっています。住所がない者については漁業権放棄手続(書面同意手続)に関与することが出来ない者ですから当然法律上書面同意の対象者ではありません。したがって,これを同意者に算入することは許されません。また,住所がない者の家に行ってどのようにして同意を得たというのでしょうか?「戸別訪問をして同意を得た」という漁協の主張を前提とすると,漁協は住所がないことをわかっていたにもかかわらず現在の住所地に戸別訪問して同意を得たか,もしくは本人に意思確認していないのに勝手に同意書に署名押印したかのいずれかしか考えられません。
そのほかにも,同意書の氏名が誤っているものもあります。また書面で同意を得なければならないこととなっているので,法律が求めているのは組合員の自署・押印であると考えられるのに,同意書の署名の多くが代筆によって行われています。その代筆も,漁協の担当者が代筆したものも数多くあります。
(3)同意者のうち第1種共同漁業を営む者がいないこと
同意を得る対象は法律で「当該漁業(注 第1種共同漁業)を営む者」と定められています。しかしながら,漁協が同意を得た者のうち,第1種共同漁業を営んでいる者は誰一人いません。漁協が同意を得た者は,地先水面での第1種共同漁業ではなく,沖合で延縄漁業を営む者達です。
したがって漁協の書面同意手続では法定の必要同意数を得ていないことになります。

3 埋立の必要性について

3 埋立の必要性について
(1)費用対効果の観点から
当然のことながら,大入島埋立問題のページの「2 埋立計画の問題点」に記載した点は主張しています。
そのうち,埋立の必要性については,佐伯港港湾整備計画の主体である国の計画,及び大入島埋立計画の主体である件の計画に対して,原告側から,それぞれの費用対効果の算出が誤っていることを指摘しています。
まず大入島の埋立については,「2 埋立計画の問題点」にも記載してあるとおり,数十億円かけて空き地を造るために,埋立をする必要性はまったくありません。このような税金の無駄遣いは,財政改革を進め,極力無駄な支出を抑えていっている広瀬大分県政の姿勢に矛盾するものです。
また,これまで大分県は,佐伯港を大型化して貨物の輸入を促進し,大分県南地域経済の活性化を図りたいが,佐伯港を大型化するにあたっては浚渫した土砂の捨て場が必要であるので大入島を埋め立てるのだとしてきています。しかしながら,佐伯港の整備自体,数百億円もの税金を投入して行わなければならないような事業でないことが明らかとなっています。すなわち,佐伯港の整備の目的・必要性は、船舶の大型化に対応し、物流の効率化を図るとされ、評価の基となる需要予測は、平成19年の予測取扱貨物量443.000トン/年とされ、主要貨物は、原木、チップ、石炭とされています。しかし,原木の外在に関する日本国内で最大規模を誇っている呉港と佐伯港の港の大きさはほぼ同程度であり,多額の税金を投入してこれ以上佐伯港を大型化する必要はありません。ちなみに,呉港での年間木材水揚げ高は佐伯港の25倍以上です。またチップについては年間約74万トンのチップを輸入している境港に入港しているのと同程度の船舶は入港可能である上,現在佐伯近辺では多量のチップを必要とする企業は存在しなくなったため,チップ輸入のために港を大型化する必要性もありません。さらには,石炭については,佐伯港では,大型化しようとしている場所とは異なる別の専用岸壁を利用して水揚げしているので,専用岸壁がある海域ではない海域を浚渫したからといって石炭の輸入促進にはつながりませんし,また現状の佐伯港の規模でも十分石炭を水揚げする規模は整っているのです。つまりは,原木,チップ,石炭それぞれについて,つぶさに検討してみると,すでに佐伯港はこれらを水揚げすることのできる十分な規模を誇っており,200億円もの税金を投入しても費用対効果はあがりません。
(2)代替処分との比較
さらに大分県は,大入島の埋立にあたっては,佐伯港の浚渫の廃棄場所としてだけでなく,高速道路や国道の工事をするにあたって生じる土砂の廃棄場所としても利用する予定としているとしてきました。大入島の埋立以外の方法で処分するにあたっては多額の費用を要することになるので,大入島の埋立をするよりほかの適切な方法がなく,埋立をしなければ,県南地域の道路の整備にも支障を来すとしてきました。
そこで,この点についても合田教授に検討してもらいました。大分県の試算によると,大入島の埋立で土砂等の処分をするとその費用は,工事費用で47億円,その他の輸送費用等を含めると約56億円となるとされています。これに対し,代替処分(道路建設にあたって生じた道路等の陸上残土の処分については,佐伯市近郊に田んぼを購入し,当該田んぼにを盛土するという方法で行い,浚渫土砂については佐伯から130㎞程度海上輸送し海上投棄するという方法を大分県は想定)では,約84億円になるとしているとのことです。つまり大分県の試算では大入島を埋め立てた方が,他の一般的な処分方法によるよりも28億円もコストを抑えることができるとしていました。しかしながら,この「約84億円」というコストはまったくのでたらめで,水増しであることが合田教授の調査の結果明白となりました。前述のとおり,大分県は代替処分においては田んぼを購入するとしていますが,その田んぼの購入費用がまったくのでたらめです。九州内での中程度の田んぼの1反あたりの実勢価額平均は130万円とされています。埋立処分をするにあたっては中程度の田んぼである必要はなく,農地としては決してよくはない安い田んぼであってもよいはずですし,大分県は処分用地として佐伯市近郊50㎞以内を想定しているようですので,この130万円を下回ることはあっても,上回ることはないと考えられます。ちなみに,実際の取引価格からすると,佐伯市の旧郡部においては,1反あたり50万円以下で農地を購入することも十分可能だと思われます。ところが大分県は1反あたり約1650万円で算出しています。九州の平均価額である130万円と比較すると,約12倍の金額としているのです。また土砂を輸送する費用についても市場価格とかけ離れた数字を前提としており,市場価額の約1.5倍で計算をしていました。代替処分について,一般の市価に基づいて計算してみると,約24億円となりました。つまり,埋立をするより代替処分による方が32億円ものコスト削減になることが分かったのです。

以上のとおり,大入島の埋立,佐伯港の港湾整備いずれについても税金の無駄遣いであり,また代替処分との比較検討の観点からも明白な税金の無駄遣いといえるのであって,大入島の埋立を行うことはとうてい許されません。

4 環境問題について

大分県は,大入島の埋立をするにあたっては,埋立予定海域の周辺に汚濁防止幕を張るので,周辺海域を環境汚染するおそれはないという立場を前提として,工事の計画を立てています。
しかしながら,埋立計画の各図面等を検討すると,どう考えても深刻な環境破壊をすることになります。より具体的にいうと,大分県の計画では,①汚濁防止膜開口部の問題,②オーバーフローの問題などがあり,これを是正しなければ環境破壊の招来は必至です。
①汚濁防止膜開口部の問題
大分県は埋立予定海域周辺には汚濁防止膜を張るといっているけれども,埋立に使う土砂を運ぶための船舶の出入り口となる開口部がある工事を予定しています。開口部があれば,そこから埋立のために海洋に投棄した土砂が流出するのは明白です。
②オーバーフローの問題
埋立予定海域周辺に汚濁防止膜を張っても,膜内の海水はそこに残ります。そうすると,海水中に土砂を投入するとどうしても体積が増え,膜の上を越えて溢れ出ることになります。
 
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